研究概要 |
ラット肝化学発癌過程での前癌病変(HN)の良いマーカーとして同定されたグルタチオン S-転移酵素P型(GST-P)およびこれと免疫学的関連性のあるヒト胎盤型GST-πの腫瘍マーカーとしての特異性を検討して以下のような成果を得た。 1. ラット腫瘍マーカーとしてのGST-P:抗GST-P兎抗体を用いた免疫学的定量法や免疫組織化学的方法により、多くのラット肝化学発癌剤によって誘発されるHNは、GST-P陽性巣として極めて早期(投与数週間後)から検出可能で感度、特異性において従来知られているHNのマーカー酵素(例γ-GTP)より優れ、肝発癌過程の細胞レベルの解析に、またラット肝HNの誘発を指標とした発癌剤、発癌修飾因子の検索に役立ち、われわれの抗体は国内外の研究グループにより活用されつつある。GST-PはHN細胞の細胞質のみならず核質にも存在することが免疫組織化学的,免疫電顕的に示唆され、その機能の面から究明中である。肝以外の臓器では、ハムスター膵(前)癌のマーカーになることが判明しているが、ラットの自然または化学発癌による大腸癌には発現せず、ヒトの場合(後述)と異なり、発現する臓器に種差があることが注目される。 2. ヒト腫瘍マーカーとしてのGST-π:ヒトGST-πは蛋白化学的にはラット GST-Pと異なるが、免疫学的共通抗原性を有し、特にN末端のホモロジーが高い。抗GST-π兎抗体を用いた免疫学的方法により、ヒト消化器(食道,胃,大腸,膵)の前癌および分化型癌、特に大腸の(前)癌組織に、また子宮頚部の異型上皮や癌組織に強く発現していることが判明した。肝では肝癌にはほとんど発現せず肝硬変に発現し、ヒトでも前癌ないし、癌関連病変に強く発現する傾向が認められる。 3. 最近、GST-P,GST-π共通エピトープを認識するモノクローナル抗体が開発され、その特異性,血清中の抗原の測定などの応用が検討中である。GST-π抗体も国内の研究グループにより活用されつつある。
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