研究概要 |
化学発癌の促進と抑制のメカニズムを、カルシウムに関係する酵素とホルモン,すなわちCキナーゼと活性型ビタミンDの面から分析した。実験は主としてマウス皮膚発癌実験系および発癌プロモーターTPAによってトランスフォーメーションが促進され、DNA合成、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)が誘導されるBALB3T3,C3H10T1/2細胞を用いて行なった。1.TPAによるCキナーゼの活性化:静止期のBALB3T3,C3H10T1/2細胞をTPAで処理すると、細胞質のCキナーゼは急速に膜に移行し、活性化することを見出した。2.Cキナーゼによる蛋白リン酸化:上の条件下で、分子量90,000の膜蛋白(p90)が特異的にリン酸化されることを見出した。しかし、p90蛋白の機能はまだ分っていない。3.Cキナーゼ高活性細胞のスクリーニング:26種の細胞についてCキナーゼ活性値を測定したが、特に活性の高い細胞は得られなかった。4.活性型ビタミンDによるトランスフォーメーションの促進:活性型ビタミンD,1α,25-dinydroxyvitamin【D_3】がBALB3~3細胞のトランスフォーメーションを促進することを見出した。しかし、活性型ビタミンDにはODC誘導、Cキナーゼ活性化などがみられないため、TPAとは異ったメカニズムでトランスフォーメーションを促進しているものと思われる。5.活性型ビタミンDによるODC誘導阻害:マウス皮膚、ラット胃、大腸におけるそれぞれの発癌プロモーター(TPA,食塩、胆汁酸)によるODC誘導を活性型ビタミンDは抑制した。6.活性型ビタミンDによる発癌プロモーションの阻害:活性型ビタミンDはマウス皮膚二段階発癌実験のプロモーション期、特に第【II】期を抑制することを見出した。以上4.-6.の成績により、活性型ビタミンDは発癌プロモーションを調節していることが明らかになった。培養細胞と動物実験の間の矛盾は今後に残された問題である。
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