申請者らは、200RVイオン加速器、超高真空散乱槽および散乱イオンエネルギー分析器を用い、固体表面から散乱した陽子のエネルギーを20〜100eVの高分解能で検出する装置を開発した。本装置(高分解能イオン散乱法)を用い、Si(111)清浄表面にAuを単原子層程度蒸着した表面における、100keV陽子のエネルギー損失を散乱角12度で測定した。この結果、約600eVに巾の広いピークをもち、エネルギー損失の増加とともに除々に減少していくスペクトルを得た。この試料を500℃以上で加熱すると、600eVのピークが鋭くなり、エネルギー損失1500eV以上における強度が減少し、Si清浄表面における強度と一致した。これらの結果より、蒸着時にはAuがSi表面に小さなクラスターとして存在し、加熱処理により、表面上にきれいに広ったと考えられる。又、Si清浄表面におけるエネルギー損失スペクトルとの比較から、AuはSi内にもぐりこむことなく、Si表面上にあることがわかった。 次に、Auの蒸着量を約半原子層にした場合、エネルギー損失スペクトルにおいて約800eVにピークがみられ、加熱処理に対してスペクトルはほとんど変化しなかった。これは、AuがSi表面第1層から内側に少しもぐりこんで安定に存在していることを示唆する。これらの結果は低速電子線回折、低速イオン散乱の結果と矛盾しない。以上、高分解能イオン散乱法を用いて表面第1層に関する知見が直接的に得られることが明らかになった。表面電子構造に起因する表面励起を直接測定することは、現装置の分解能、検出効率の点で困難であるが、表面原子構造に関する知見および現在計画中の、エネルギー損失の衝突径数依存性の測定により表面電子密度に関する知見が得られると考えられる。
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