低速イオンの中性化過程およびイオン化過程を制御されたサブモノレイヤーアルカリ金属層を用いて明きらかにする目的で、まず、オージェ電子分光法(AES)、仕事関数の変化(Δφ)を用いて、W(110)上のKの成長過程の知見を得、2次イオン質量分析法(SIMS)を用いて、各coverageでの【K^+】および【K(^+_2)】の2次イオンの測定を行った。まず、Kのオージェ電子強度は、蒸着初期では、時間とともに直線的に増加するが、ほぼ一原子層完成後、一定の強度を示す。Δφは、最初減少し、約3.6から4eVの最小値をとり、その後増加し、約1原子層で最大値をとった後、ゆるやかに減少する。このことより、W(110)上のKは、最初は層状に成長していると推定できる。このような成長過程を示す系の2次イオン強度を測定した結果、【K^+】は約1/8層弱で最大値をとるような、ピークをもった強度変化を示す。また、【K(^+_2)】は1/4層弱で最大値をとるようなピークをもった変化を示す。【K^+】と【K(^+_2)】が蒸着量に対して、単調に増加せず、特異な変化をすることは、2次イオン化効率が、非常に表面の状態に敏感であることを示している。しかし、現在のところ、このような特異な変化を説明できる段階には到っていない。次に、2次イオン強度と、Δφの関係をみる。2次イオン強度を対数目盛上にとると、2つの直線部から成り立っていることがわかる。これは、2次イオン化率が、仕事関数と密接な関係をもっていることを示している。Yu等が議論しているように、仕事関数のようなマクロは物理量と関係していることは、electron tunneling・モデルでイオン化過程を説明しうる可能性があることを示している。この解釈については、さらに詳細は実験を行った上で結論を出す必要がある。
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