研究概要 |
イノシトール1,4,5-三リン酸(Ins【P_3】)によるマクロファージ(Mφ)小胞体からの【Ca^(2+)】遊離機構を検討し、小胞体上のIns【P_3】受容分子を光親和標識するためのIns【P_3】の光感受性誘導体を合成した。 1.Ins【P_3】による【Ca^(2+)】遊離機構の解明:小胞体膜は本来【Ca^(2+)】に対して不透過性で、膜が強い拡散障壁となっている。Ins【P_3】による速い【Ca^(2+)】遊離はこの拡散障壁の破壊を意味する。この原因として、【◯!1】【Ca^(2+)】ポンプの抑制、【◯!2】小胞体の【Ca^(2+)】保持能の低下、【◯!3】【Ca^(2+)】透過性の亢進 等が考えられた。【Ca^(2+)】ポンプ活性を完全に抑制する濃度のバナジン酸を添加したり、あるいはアピラーゼやヘキソキナーゼによってATPを枯渇したりすることによる【Ca^(2+)】遊離は極めて緩徐であり、またIns【P_3】は小胞体への受動的【Ca^(2+)】流入も促進した。これらの結果は上記【◯!3】の可能性、すなわちIns【P_3】により小胞体膜の【Ca^(2+)】透過性が亢進することを強く示唆する。そして低温にしてもIns【P_3】の効果は影響されないことから担体ではなく、チャンネルを介した透過性亢進であると考えられた。 2.Ins【P_3】の光感受性誘導体の合成と利用:光感受性基としてP-アジド安息香酸(pAB)を用い、カルボニルジイミダゾールを触媒としてIns【P_3】と混和する。セルロース薄層クロマトグラフィーによって分離するとIns【P_3】のRfは0.20であるのに対して0.50のところにIns【P_3】-pABを得た。収率は約10%でIns【P_3】とpABのモル比は約1:1であった。既報のサポニン処理Mφ(S-Mφ)をIns【P_3】-pABとともに紫外線照射した後、S-Mφを洗浄した。このS-Mφを用いて【Ca^(2+)】輸送を調べると、Ins【P_3】による【Ca^(2+)】遊離はもはや認められなかった。【Ca^(2+)】遊離の抑制は、S-MφをIns【P_3】やpABとともに紫外線照射した時や、また Ins【P_3】-pABとともに10倍量のIns【P_3】を添加した時にも認められなかった。
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