研究概要 |
メタロセン誘導体を中心とする有機金属化合物の, 固体状態での分子構造や分子間相互作用と, 電子状態や反応性(動的化学状態)との関連を明らかにする目的で行った研究について, 以下に示す成果を得た. 1.メタロセン誘導体の金属原子のルイス塩基としての配位性:メタロセンの金属原子のe_<2g>電子は塩基性を示し、様々なルイス酸と付加物を形成する。本研究ではフェロセンおよびルテノセン誘導体のハロゲン化水銀(II)、塩化スズ(IV)、I^+D1、CD2+D1などの付加物を合成し、固体高分解能NMR、メスバウア-分光法を中心とした方法を用いて、固体中における構造、化学的安定性、酸化還元挙動、Fe、Ruとルイス酸との間の結合状態を明らかにした。これらの結果は、概ね、e_<2g>電子の塩基性、或はルイス酸の強さから理解できるが、固体状態特有の分子配列や、結合の歪みが重要である場合も見出された。 2.多核フェロセン誘導体の混合原子価状態:一電子酸化二核フェロセン誘導体は多様な混合原子価状態を示す. 本研究では, まず, 対イオン, 結晶形の異なる様々な混合原子価多核フェロセン誘導体を合成し, その固体状態での原子価状態をメスバウアースペクトル, ESR, 磁化率, 赤外スペクトル, 吸収スペクトル等の方法を用いてしらべた. これらの結果から, 結晶中での対イオンとビフェロセニウムカチオン或はアニオンを介在したカチオン間の比較的弱い相互作用が, これらの化合物の混合原子価状態を決定するうえで, 支配的な要因であることが明らかにされた. また, これらの分子間相互作用が協同的に働くことが, 原子価状態の温度変化と密接に関わり合っていることが示された.
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