研究概要 |
1.高血圧における細胞膜異常を、生ず神経・血管細胞の膜異常に注目し、実験高血圧から得た分離血管標本を応用して交感神経-血管平滑筋伝達シナプス膜での神経伝達物質遊離調節機構や血管収縮反応、更にNa,Caを中心とした電解質代謝の面より検討した。高血圧自然発症ラット(SHR)の幼若期,DCCA食塩高血圧の慢性期ではnorepinephrine(NE)遊出量は増加し、血管反応性も亢進していた。このNE遊出量増加機序には各種シナプス前膜受容体を介するfeed back機構の障害が深く関与し、epinephrine,peptide hormone等の内因性体液物質に対する反応性の変化もその要因となる。またCa-Calmodulin阻害薬、【Na^+】,【K^+】-ATPase阻害薬のNE遊出に対する影響が高血圧群で著明なことから、細胞レベルでのCa,Na-handlingの異常もNE遊出,血管反応性亢進に寄与するものと考えられる。 2.次に臨床的に本態性高血圧患者から得られた赤血球を用い、実験高血圧の成績と対比しながら電解質輸送や膜の物理的性状を検討した。本態性高血圧では細胞内Naの増加やNa-Li countertransportの亢進が認められる。またosmotic fragilityを指標とした膜rigidityや電子スピン共鳴法より測定した膜fluidityはCaの影響を強く受け、正常血圧群に比し高血圧群ではその変化の程度は大きい。更にCa拮抗薬やcalmodulin阻害薬によりCaの影響は是正されることから、細胞膜を介してのca-handingの異常が高血圧の質的変化をきたす可能性がある。以上の如く、高血圧の細胞膜では物理的性質に変化が認められ、それが細胞内外の電解質に影響されることは、構造上および機能的な細胞レベルの異常が互いに密接に関連していることを示唆するものと考えられる。そしてこれら電解質輸送を中心とした膜異常が高血圧の細胞にひろく存在し、神経細胞や血管平滑筋においては神経伝達物質遊離の増大や血管収縮の亢進につながり、高血圧の発症・維持機構に関与するものと考えられる。
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