研究概要 |
全部床義歯において, 義歯に与える咬合様式を咀嚼機能面から明らかにすることは極めて重要なことである. 本研究は, 多チャンネルの咬合接触の情報を無拘束状態で送受信可能なテレメータシステムの開発, およびその口腔内への応用を目的としたものである. 開発したテレメータシステムは, 送信器系と受信器系からなり, 送信器は搬送周波数が65MH2で, 酸化銀電池(3個)を電源とし, 消費電流約1.0mA, 通達距離約2m, 連続送信時間約7時間である. なお重量は電源を含めて約2.6gである. 咬合接触検知のために, 左右下顎第1・第2小臼歯, 下顎第1大臼歯, 下顎第2大臼歯に0.5mm幅の金属格子を互いに違いに0.5mm間隔で合着し, この互い違いに埋め込まれた格子をスイッチとした・これに, 対合の上顎義歯臼歯部金属咬合面が接触すると約100KH2の周波数偏移が生じる. この送信器側の周波数偏移を受信後, 復調器にて増幅, 波計整形し, 記録可能な電圧の変化としている. これにより, 左右の小臼歯部の, 第1大臼歯部, 第2臼歯部の計6チャンネルの咬合接触の有無についての情報を得ることが可能となっている. 本システムを無歯顎者に応用したところ, 非咀嚼側の各臼歯部間において咬合接触の開始にtirne lagが認められた. このような現象については, 従来報告されておらず, 非咀嚼側の咬合接触は, 第2大臼歯, 第1大臼歯, 小臼歯と遠心部位から近心への順に生じたことは興味ある知見である. また咬合接像などから考えると, 咀嚼時に食塊の存在により義歯は回転, 変位することは明らかである. 非咀嚼側においてより遠心の人工歯から接触を生じるということは, 咀嚼時における義歯の安定という観点からすると, いわゆるbalancing contactの与え方について再考の必要性が示唆された.
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