研究概要 |
本研究の目的は、中国仏教における仏典解釈の具体的方法とその変遷を究明するための基礎的作業の一環として、隋代の代表的学匠である浄影寺慧遠の仏典解釈の基本的特質を浮き彫りにすることであったが。幸い、諸方面の協力を得てこの目的をほぼ達成することができた。すなわち、われわれは、現存する浄影寺慧遠の仏典注釈書類を逐次解読し、慧遠が漢訳仏典解釈に際して、音訳語をどのような意味において促え、難しい語句や重要な語句、あるいは難解・不自然な文脈をどのように理解し、さらには、どのような仏典を援用しているかといった諸点を可能な限り明らかにしたのである。 本報告書には、このうち、慧遠の経典解釈をめぐる諸問題の調査・検討の結果が提示される。これによって、(1)慧遠の〈経〉の基本的な理解の仕方が極めて総合的・体系的であること,(2)音写語の意訳語がかなり固定していること,(3)語義や文法に関する知識も豊かで、おおむね正確ではあるが、問題とされる語句は必ずしも多くはなく、語学的な関心に片寄りが感じられること,(4)『観無量寿経』の注釈態度としては、『涅槃経』や『大智度論』の思想との関連性を重視しつつ、それを正統的な仏教の流れの中に位置づけようとしていること,などが明らかにされよう。また、いくつかの節はそのままで一種の辞典としての役割をもつので、中国仏教学界のみならず、関連諸学界をも少なからず〓益できよう。 今後は、この成果を踏まえて、慧遠以外の中国仏教者たちの仏典解釈の方法にも眼を向け、また仏教外の人びとによる中国固有の聖典の注釈の仕方との比較も試みながら、最終的には中国における仏典解釈法の全貌を明らかにすべく努めていきたい。
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