研究概要 |
本研究の主要目的は、具体的なものの線画の命名潜時と、漢字や仮名で表記された語の音読潜時を指標とする実験を通して、漢字,仮名,絵の認知過程の共通性と異質性を明らかにすることにある。このことに関して、以下のような知見を得ることができた。 漢字と仮名の音読潜時に及ぼすプライミング効果:漢字と仮名による語を視覚的に提示し、それを音読させて、語の提示から音読に至るまでの潜時を測定する。この際音読すべき目標語に先立ち、目標語と以下のような関係にある語をプライムとして提示した。a.同一語,b.同音異義語,c.意味的関連語。cについては、意味のクラスター分析に基づき、意味関係の異なる語対からなるクラスターを構成し、クラスターごとの効果を検討した。上記の測定値と、無関連語をプライムとした場合の目標語に対する音読潜時との比較から、いずれの場合にも、無関連条件よりも音読潜時が短くなるという、促進効果の得られることがわかった。また、意味的関連について言えば、反意語関係の場合に、最大の促進効果が得られることがわかった。プライムとターゲットの表記が、漢字-仮名,仮名-漢字のどちらの場合にも同程度の促進効果が得られた。プライムを聴覚的に提示した場合にも、また、課題を語決定課題とした場合にも、基本的には同様の結果が得られた。 絵-語間のストループ的干渉効果:良く知られた物や動物の絵例えば、旗や馬の絵に名詞を重ねて印刷したものを提示し、その絵に対する命名の潜時を測定した。絵と語とが一致している場合,無関連な場合,無意味語を用いる場合,の三条件で実験を行なった結果、無関連語条件と比較して、一致条件では促進、無意味語条件では干渉効果の得られることが明らかとなった。上記の結果をもとに、漢字と仮名とを用いる日本語の読語過程についての理論的考察を行ない、印欧語の処理過程との相異等について考察した。
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