研究概要 |
1.仏壇の産地には, 仏教とくに真宗の篤信地域が多い. 鹿児島県川辺町もそうであるが, 当地は仏壇産地の中でも特異な宗教の歴史を背景にもっている. 慶長2年(1597)から明治9年(1876)まで熾烈を極めた薩摩藩の一向宗禁制と, 明治元年の神仏判然令を契機とした翌年の廃仏毀釈がそれである. 川辺でも禁制に多くの殉教者を出した. また廃仏毀釈も過酷を極め, 13ヶ寺の曹洞宗寺院が廃寺にされたという. 秘境ともいえる川辺の村むらには「かくれ念仏」が浸透していたために, 地元での寺壇関係が弛緩していた曹洞宗寺院は, 廃寺から立直ることができなかった. かわって一向宗解禁後, 瑞宝寺(本派本願寺派)をはじめ大谷派2ヶ寺, 興正寺派3ヶ寺が設立され, 「かくれ念仏」の組織を基礎に全村が真宗門徒に編成された. 川辺仏壇のもとになったといわれる「ガマ」という小型仏壇と, 仏壇産地としての歴史が新しいことなどに, 「かくれ念仏」の影響をみることができる. 2.一般的に伝統的工芸品産業発生の立地条件としては, (1)木工・塗装・錺金具などの関連技術のいずれかが地場産業として地域に定着, (2)木工・漆・金属などの関連資材が地元に豊富で入手が容易, (3)産地が大量消費地に近く交通輸送に便利, (4)旧藩主などの保護奨励があったこと, などの要因があるが, 川辺仏壇産業はこのいずれにも該当しがたく, ただ真宗の盛んな土地柄のために仏壇産業が発生したとしか言えない. 3.主題の統計調査は, 全国屈指の仏壇産地「川辺仏壇」産業従業者(川辺仏壇協同組合組合員企業で働いている経営者および男女従業者)の仕事と勤め先とに対する帰属意識を調べることを目的とし, 昭和60年秋に実施した. 調査項目は27で, 集計は単純・クロス集計をおこなった. クロス集計については, 各設問にわたって性別・年令階層別・従業上の地位別・仕事の内容(職種)別でおこなった.
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