研究概要 |
本研究は日本の南海上に展開した文化のなかから, 南西諸島を構成する5つの地域, すなわちトカラ, 奄美, 沖縄, 宮古, 八重山の家族を比較研究して, その構造類型を明らかにし, さらに日本全体の家族における位置を明らかにしようとしたものである. 本研究はこのうち奄美, 沖縄, 八重山の三つの地域について集中的な家族を中心とする調査を実施した. 奄美大島宇検村, 瀬戸内町, 沖永良部島和泊町, 沖縄本島奥武島, 八重山波照間島である. これらの調査研究によって, 次のような成果が得られた. 第一は南西諸島の家族が極めて顕著な多様性を保持していることである. 奄美の家族は形態的には夫婦と未婚の子供で構成される夫婦家族である. こうした奄美の小家族的傾向は奄美に伝統的なものである. この家族の祖先祭祀をみると, 父方の先祖の祭祀を基本としながらも, 妻=母方の先祖の祭祀を合わせて行っている例がしばしば認められる. この妻=母方の先祖が客仏としてではなく, 自家の父方の先祖と同様に祀られていることが注目される. こうした事実からみて, 奄美の家族は小家族的な双性家族とみなすことができる. これに対して沖縄本島や八重山の家族の基本形態は三世代の直系家族であり, 先祖祭祀は父方の先祖のみに厳しく限定されていることである. この意味において, 沖縄や八重山の家族は基本的に父性的な直系型家族であるといえる. 第二にこうした家族構造の差異は最近の社会変容によって, ますます顕著になりつつあることである. 奄美の家族はますます小家族化し, また妻方や母方の先祖の祭祀がますます活発に行なわれている. これに対して沖縄の家族はシジタダシに代表されるように父系の先祖以外の先祖を排除する傾向が顕著である. 第三は南西諸島の家族の多様性は今後もさまざまな側面から研究される必要があることである.
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