研究概要 |
本研究は「詩文混成体」即ち、同一作品中に散文と韻文の共存する文芸形式、一般には散文を主体として詩や歌が挿入され、両者が有機的に結合することによって緊張した表現力を生じ作品の文芸的価値を高めているような文芸作品を、比較文学的,世界文学的,一般文学的立場から考察した。分担者が各々の専門に従って取り上げた作品の主なものは下記の通り。日本文学では中世軍軍記物語,近世小説,明治以降の白話体小説。西欧では中世紀のprosi-metrum形式、「アストレ」を初めとする17世紀フランス宮延小説,ゲーテ,シュトルム等。中国文学では六朝期の連作詩,唐代伝奇小説等,多岐に亘っている。本研究は形式の伝播や系譜といった外面的、史的事実の探索よりもむしろ、具体的作品における詩と散文の係わり合い、そこに働く言語の機能を求め、それを通じて詩とは何かの普遍的本質をある程度解明し得た。散文の部分が詩の解説詩の理解をより的確とする役割を担う場合、登場人物間の歌の贈答、辞世等。社会的的契機によるにせよ、述懐の詩の挿入等私的契機によるにせよ、ほとんどの場合詩は散文作品に比してはるかに高い価値を持つものとして扱われ、そこに神聖な力のやどるものとされる場合さえあり、装飾として作品に変化を与えるばかりでなく、作品の核として作品全体に強く影響し、一篇の芸術的価値を高めることとなる。また逆にその詩の有する潜在的価値と深い意味が作品全体によって明らかにされる場合もあり、これは既存の詩を用いた場合に著しい。本研究は今後劇文学(日本の「謡曲」ラシーヌ等のフランス古典劇等)など、取り上げることの少なかったジャンルに考察を広げ、より体系的・本質的に文芸美学的考察を深めることを目でして継続中である。さらに、現代ジャンル理論の中に混成体をどう位置付けるべきかについての検討が行なわれている。
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