研究概要 |
法と裁判を直結させる西欧の法観念によれば, 訴訟に頼ることの少ない我国では, 法の果たす役割は小さいと言われている. しかし, 近年になって西欧諸国においても訴訟に代わる諸々の紛争解決制度が提案され, 実践されるようになってきている. このように我国を含め, 各国で裁判外の紛争解決が制度として発達することにより, 各種の紛争解決手段の中における裁判固有の特質と分担領域, 裁判を受ける憲法上の権利との関係, さらには裁判外の紛争解決制度発達の政治的インプリケーションといった理論上の諸問題が提起されるに至っている. そこで我々は, 民事訴訟法学, 憲法学, 法律学, 政治学の専門分野の協力により裁判と裁判外紛争解決との関係について, その現状および理論的, 政策的背景を実証的かつ多角的に明らかにしようと試みてきた. その具体的方法は, (1):研究分担者の全員または一部による定期・不定期の協議, (2):研究分担者ないし外部から招聘した研究者(外国人を含む)の報告を題材とする公開・非公開のシンポジウム(その概要は研究成果報告書を参照), (3):(1)ないし(2)を通じて得られた知見をもとにした, 研究分担者各人の論文執筆(その一部は研究分担者の著書である佐藤『現代国家と司法権』, 田中『現代日本法の構図』にまとめられた)あるいは学会報告(特に谷口は昭和62年8月にオランダ・ユトレヒトで開催された世界訴訟法会議で裁判と裁判外紛争に関して総括報告を行なった)である. 研究組織としての活動は主に(2)を中心に展開したが, これによって得られた, 東アジアの法文化と紛争解決, 「第三の波」訴訟理論などに関する新たな知見は, 今後の研究分担者各人の研究活動に直接・間接に寄与するものと思われる.
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