研究概要 |
超電導薄膜の一部を細くした, いわゆるブリッジの臨界電流は垂直磁界中で履歴を示す. 本研究は, この履歴を用いて記憶デバイスを作るための基礎研究を行なったものである. 上記の履歴はNb, NbN及び臨界温度90Kの酸化物超電導体においても存在することがわかった. 履歴が生じる磁界の範囲を広くするためには, ブリッジの細くくびれた部分の長さを短く, また, その部分の幅を狭く, バンクの幅を広く, バンクの厚さを細くくびれた部分より厚くする方が良いことが判明した. また, 温度が低い方が, 履歴が生じる磁界範囲が広い結果が得られた. 掃引磁界のある値以下では, ある値以上と同様, 履歴は生じないことがわかった. 記憶デバイスとしての高速応答の測定は, 1〜50nsの短いパルス磁界に対する定電流の下でブリッジ電圧の応答を調べることによって行なわれた. 前記の全ての時間幅のパルス磁界が加わると, ブリッジ電圧は減少した. しかし, この応答は磁界の向きの反転に対し変化しないため, パルス磁界によって誘導された電流によるブリッジの履歴が生じたものと考えられる. 履歴の原因の定性的説明が行なわれた. ブリッジの細くくびれた部分を流れる電流は, 外から流した電流と磁界によってバンク内に生じた電流のうちの細くくびれた部分に流れ込む電流の代数和であり, その和が電子対破壊電流に達する時の外から流した電流が, ブリッジの臨界電流とみなされる. バンクから細くくびれた部分へ流れ込む電流はバンクのエッジ・ピンニングのために履歴を持つ磁束分布に基づくため, ブリッジの臨界電流は磁界中履歴を有する. この解釈は, 臨界温度以上で加えられた磁界及びブリッジへのアルゴン照射の臨界電流の履歴に対する実験によって支持される.
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