研究概要 |
下限界近傍のき裂進展挙動, 特にその領域における裂開閉口現象の役割を明確にすることを目的とし, SUS304鋼, SM41A鋼, SS41鋼ならびに耐熱A1合金A2218-T6を用いて常温から中高温域にわたるき裂進展挙動を調べ, さらに酸化物による効果をも明確するために不活性環境であるアルコンガス中300゜C下においてSUS304鋼, SM41A鋼の下限界挙動を調べた. 中高温下における疲労き裂進展速度は温度の上昇とともに線形き裂進展領域では加速した. 一方, 鉄鋼系材料では下限界値△Kthは温度上昇とともに増大し, 特に250゜C以上から急激な上昇傾向を示すことが明らかとなった. 以上のような△K th値の温度上昇に伴う変化は本質的には△K eff thの温度依存性にき裂閉口のそれが重畳したものと考えられるが, 両者の寄与度は各場合で異なっていた. SUS304鋼の場合, 高温になるにつれて破面は著しく粗くなるが, それに伴ってき裂閉口が顕著に生ずることはなく△K th値の上昇は主として△K eff thの上昇に起因していた. またSM41A鋼の場合, △K eff thの温度上昇割合は比較的小さく, 破面上付着酸化物量は△K thの上昇と良く対応し, △K th値の上昇は主として酸化物誘起によるき裂閉口の上昇に起因していた. しかし同じ炭素鋼でもSS41鋼ではき裂閉口の寄与は少なく△K thの温度上昇に伴う増大はSUS304鋼の場合と同様△K eff thの増大による所が大きいようであった. 一般に△K thの温度依存性に及ぼすき裂閉口の寄与の程度は下限界におけるき裂先端開口変位との相対関係で決定していることが明らかとなった. 加えて中高温・不活性環境下における下限界値から, 中高温大気中における下限界値の上昇には破面上に付着する酸化物のくさび作用によるき裂閉口の助長に起因した△K th値の上昇と, き裂先端における逆すべりを酸化皮膜が阻止するような何らかの強化機構による△K eff th値の上昇の2種類のメカニズムが考えられた.
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