研究概要 |
情報セキュリティを保つための暗号技術は、社会的にもその充実が望まれている。特に、鍵配送が簡便な公開鍵暗号化/ディジタル署名方式およびそれらを支える非対称暗号系は多様なセキュリティをエレガントに実現可能であるため、高速処理が容易な非対称暗号系の開発が強く期待されている。 本研究は、このような状況の下で、高速処理が容易な非対称暗号系の開発とその高速性の実証を目的とし、昭和60,61両年度にわたり行われたものであり、次に示す四つの成果を得た。第一の研究成果は、高速かつ安全な非対称暗号系として、「多変数多項式タプル非対称暗号系C(m,n)」を見いだしたことである。この暗号系は、筆者らが提唱している「関数のObscure表現に基づく構成法」を利用し、安全性は多変数連立代数方程式を解く難しさに依存している。また並列処理に適し、高速実現が容易であるという特長を持つ。第二の成果は、正規基底乗算,パイプライン処理,プロセッサアレイを導入して、C(m,n)の諸アルゴリズムの効率を高め、並列処理言語occam2により記述したことである。第三の成果は、並列処理向き汎用マイクロプロセッサtransputer10台を用いたソフトウエア(accam2)によるC(m,n)の実行実験を行い、その高速性を示したことである。例えばメッセージブロックが527bitの暗号系C(31,17)において、公開変換8.1kbps,秘密変換4.6kbpsの処理速度を得た。また、transputerが有限体乗算器を内蔵しているなら、ソフトウエアにおいても公開・秘密変換を約100kbpsで容易に実現できることも明らかにした。第四の成果は、暗号系実現に適したアーキテクチャの条件を示し、これを利用した小規模のハードウエアによる数Mbps程度の公開鍵暗号・署名装置の実現可能性を明らかにしたことである。 以上の研究成果は、今後、情報セキュリティの基礎技術としての活用が期待される。
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