研究概要 |
本研究は, 研究代表者伊理によって発案された「多変数関数の変数の数に依存せずに高速にかつ正確にその偏導関数の値を計算し, 丸め誤差評価値をもその副産物として計算する手法」の実用化を目標とした. この手法は, 回路解析・システム解析などにおける多変数関数の偏導関数の計算や収束判定計算に現れる, "数式処理の困難", "数値微分の困難"および"丸め誤差評価の困難"という問題点を解決する. 我々は, 関数を計算する手続きから偏導関数の値などを計算する手続きを自動的に生成する自動微分と組み合わせてこの手法を"高速自動微分法"と呼んでいる. 本研究の成果を以下に列挙する: 1.化学プロセスシミュレーションへの本手法の適用による偏導関数計算の高速性の確認および丸め誤差評価値を用いた"正規化ノルム"の提案, 2.ヤコビ行列とベクトルとの積の計算を関数計算の手間の定数倍で可能にする手法の発見, 3.ヘッセ行列とベクトルとの積を関数計算の手間の定数倍で計算する手法の計算グラフの観点からの説明, 4."部分計算グラフ"の定義および算法の記述の厳密化と算法の途中結果として得られる量の数学的解釈, 5.厳密な上界かつ計算の高精度化に従って上限の漸近するような丸め誤差評価値を与える算法の考察, 6."可縮部分グラフ(傘)"の定義および支配関係木を作成することによる"傘"の効率のよい抽出法の提案, 7.小型計算機上でも動作する処理系(FORTRANプリプロセッサ)の製作および実際的な大規模な問題に対しても十分実用的な時間と費用で偏導関数値などを得ることができることの確認. 高速自動微分法が, 実用技術となり, その重要性と有用性が広く認識され, 数値計算の基礎技術としての地位を確立する上で, 本研究は大きな貢献をした. 数値計算技術に新しい時代を展開するために, 今後も高速自動微分法の研究を続ける必要性は大きい.
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