研究概要 |
本研究の目的は, 低温度(-60°C)で沃化鉛の基盤結晶の上に氷のひげ結晶(ウィスカー)を気相成長させて, その成長速度の過飽和度依存性の測定を行い, それをもとに, 極端に細長いひげ結晶が生成される原因やその先端部の成長機構を解明することにある. 本研究の成果は次のとおりである. 1.本補助金で購入した低温循環恒温槽, LAUDA-SK80Dを用いて最低-80°Cの低温における氷のひげ結晶の育成とその場観察のための装置を作成した. また, 基盤結晶として用いる沃化鉛の単結晶育成装置も作成した. 2.-50〜70°Cの間で, 沃化鉛の0001面上の氷のひげ結晶を成長させることに成功した. その伸長方向はC軸で先端面は0001面である. 3.基盤結晶上に生成された初期氷結晶の大部分は, 軸比が1に近い結晶に成長し, C軸方向に極端に速く成長してひげ結晶になるものの割合は1%以下であった. このことから, 初期氷結晶のうちで, その0001にのみ"らせん転位"が露呈しているものだけがスパイラル成長によってひげ結晶になるものと考えられる. 4.-60°Cにおいて, ひげ結晶の先端面の成長速度Rexpの過飽和度(σ〓)依存性を測定した. 5.水分子の拡散過程と表面で水分子を結晶格子に組み込む表面カイネティック過程の寄与を分離して成長速度の実測値を解析する方法を確立した. 6.上記の方法による実験結果の解析から求めたカイネティック係数の表面過飽和度依存性が, らせん転位によるスパイラル成長機構の理論曲線とコンシステントであることが確認された. なお, 本研究は当初, 小林禎作教授を代表者としてスタートしたが, 同教授の逝去により, 黒田がとりまとめた.
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