研究概要 |
本研究では、ベンジルを中心とし芳香族カルボニル化合物につき、三重項状態の特性を定めるとともに項間交差,三重項-三重項エネルギー移動,水素原子移動反応などの機構を時間分割ESP法によるスピン分極の測定から解明した。研究成果の概略を以下にまとめる。 1.ビアセチルの【^3n】【π^*】三重項状態:77K鋼体溶媒中で【T_1】←【S_0】吸収により直接光励起した【^3n】【^π*】のスピン分極から、D値の符号が正であると決定した。また極性溶媒と無極性溶媒中でスピン分極の様相が顕著に変わることから、項間交差の機構が溶媒によって切り変わることを明らかとした。 2.三重項-三重項エネルギー移動:ベンゾフェノン-ナフタレンなどの系では三重項-三重項(T-T)エネルギー移動により、ナフタレンのスピン分極したスペクトルが観測された。スペクトルの解析より、T-Tエネルギー移動が電子交換機構で起きていることを、実験的に直接証明した。 3.三重項-二重項系のスピン分極保存:ベンゾフェノンなどの芳香族カルボニル化合物と安定なラジカルであるニトロオキサイドの共有する系をは、カルボニル化合物のスピン分極が電子交換またはスピン交換により、ニトロオキサイドラジカルに移動することを明らかにした。 4.ベンジルのスピン分極の反転:室温でベンジル-水素原子ドナー(アニリン,フェノール)系を光照射すると、ベンジルケチルおよびアニリノ,フェノキシラジカルのCIDEPが観測される。CIDEPのスピン分極の極性は、水素原子ドナーおよびベンジル濃度,ドナーの反応性によって反転する。このようなスピン分極の反転は、ベンジル分子間の三重項エネルギー移動と、それにともなうベンジルの非平面形から平面形への構造変化によって説明される。
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