研究概要 |
平衡状態にある二鉱物間の微量成分の分配係数は生成温度に依存する度合が大きく、これを利用した生成温度推定の可能性は理論的あるいは実験的には実証されてはいるが、鉱床を対象としては未だ十分に検証がされていない。本研究では鉱床型,構成鉱物種などの異なる釈迦内,下川,Broken Hill,神岡,秩父,豊羽,大江及びMamutの8鉱床の鉱石鉱物中の微量成分の分配挙動を調べ、次いで分配係数と生成温度との関係について鉱物合成実験結果との対比及び流体包有物による生成温度との比較検討を試みた。 1.微量成分の鉱石鉱物間における相関性 Mn,Cd,Ni,Co,Inほか13元素について8鉱床の鉱物間の元素毎の相関性を調べた。元素毎にあるいは鉱床毎に相関関係は極めて多様なパターンを示すが、相関関係の大きいものには豊羽の閃亜鉛鉱・黄鉄鉱中のInとCo 閃亜鉛鉱・方鉛鉱中のNi,釈迦内の閃亜鉛鉱・黄鉄鉱中のMn,大江の閃亜鉛鉱・黄鉄鉱中のCd,などの組合せが挙げられる。 2.微量成分による生成温度の推定 閃亜鉛鉱と方鉛鉱間のMn及びCdの分配係数による2つの温度スケールを用いて釈迦内,神岡,豊羽及び大江の各鉱床における生成温度について計算した。算出された生成温度は上記のいずれの鉱床においても流体包有物あるいは硫黄同位体によって推定される温度よりも高く、またその最大値と最小値の差も大きく、これらの鉱石鉱物の生成温度を表わす値とは考へ難い。このように閃亜鉛鉱と方鉛鉱間のMn及びCdの分配係数と生成温度との間に相関性が認められない原因としてはいくつかの要因が考慮されるが、海底の熱水活動で生成されつつある鉱床から類推されるようにこれらの鉱石鉱物は合成実験におけるよりも比較的短い反応時間で生成され、未だ平衡に到達していないことが最大の原因と考えられる。
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