研究概要 |
水溶液中の金属イオンを種別に選択して透過分離する圧透析膜の開発を目指して研究を行った. 開発の基本的な指針と次のとおりである. 金属イオンをハロゲンイオン, チオシアナトイオン等で錯体とする. 荷電中和(無荷電)錯体はそのまま, また, アニオン錯体は適当な共存カチオンとイオン対にして高分子膜に抽出(吸着, 収着)・濃縮する. 加圧下に高分子膜中を水が透過するとき, 抽出された錯体種は水流と共役して選択的に透過液側に流出する. これは, 逆浸透膜のスキン層を溶媒抽出での有機溶媒に対応させ, 溶媒抽出での金属選択性を圧透析に拡張する新しい着想である. 酢酸セルロース(CA)膜を用いて, 上述のことをすべて実験的に証明することができた. CAは固体高分子であるにもかかわらず, 有機溶媒であるメチルイソブチルケトンやグリセリン三酢酸エステルと抽出溶媒として類似の挙動を示した. 例えば亜鉛チオシアナト錯体の場合, 錯体の分配性, 抽出錯体の組成共に, 互いに極めて類似していた. 圧透析においては, 膜への錯体の抽出定数と膜内での拡散定数によって透過選択性が定まるが, CAの場合前者が支配的であった. チオシアナト錯体の例では, 透過性はZn>In>Fe(III)>Cd>Niであった. 金属選択性の幅を広げるために, CA以外に多数の高分子化合物を同様に検討した. しかし金属選択性に大きな差は見られず, しかも, 圧透析膜として用いた場合, いずれもCA膜の性能には及ばなかった. 最後に, 高分子膜への金属錯体の抽出に関し, 新しいイオン選択性を開発するため, イオン対抽出における荷電数, 分子形状の認識に関する基礎的な検討を行った. 抽出溶媒を液晶化合物とすると, 液晶構造とイオン対の分子構造(形状)との間の整合性が抽出反応に影響することがわかった. 多価イオンの抽出では, 対イオンとの荷電の整合性が重要な因子となり得ることが明らかになった.
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