研究概要 |
二価硫黄で安定化された炭素陽イオン(カルボカチオン)を塩として単離する簡便な方法を開発し、このカルボカチオン塩からケテンジチオアセタールおよびオルトエステルが容易に合成できることを示した。また、スルフィン酸ナトリウム,チオールなどの求核剤と反応して付加体を与えることもわかった。この付加体は、光化学的イオン化によってチオカルボカチオンを生成する前駆体として用いられた。 単離ジチオカルボカチオンの水溶液中の反応挙動から、正四面体中間体を経る分解過程の機構を明らかにした。この機構は、さらに混合O,S-オルトエステルの加水分解生成物分布の変化からも詳しく考察された。 ケテンジチオアセタールの酸触媒加水分解における中間体ジチオカルボカチオンの挙動を速度論的に詳しく調べた。この挙動に対する分子内水酸基の影響を調べることにより、新しい隣接基関与の機構を明らかにした。 2-(p-トルエンスルホニル)-1,3-ジチオランおよび2-(p-クロロフェニルチオ)-1,3-ジチオラン,ならびにこれらの2-フェニル置換体の水溶液について、キセノンランプを光源とする閃光光分解を行った。MCPD検出器によって得られるスペクトルから、ジチオラニリウムイオンの生成が確認された。しかし、このカチオンの分解は一次反応速度則にはしたがわず、アニオンとの再結合反応が大きく寄与することがわかった。求核剤として、チオールあるいはスルフィン酸アニオン存在下に閃光光分解を行うと、擬一次反応速度則にしたがうカチオンの分解が観測され、求核剤との反応の速度定数が求められた。 今後、さらに多くの求核剤との反応速度を測定するとともに、他種の炭素陽イオンについても研究を進めたいと考えている。
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