研究概要 |
大腸菌における主要外膜タンパク質であるOmpC,OmpFタンパク質の合成調節機構を、特に遺伝子発現の調節という観点から研究し、その分子機構に関して多くの新しい知見を得た。(1).ompC遺伝子の発現(転写)調節に重要な各々のプロモーター構造を明らかにした。両遺伝子ともに、従来大腸菌においてよく知られているプロモーター構造(-35,-10領域)に加えて、その上流の塩基配列(約70塩基対)が、プロモーターの活性化に必須であることが明らかとなった。この領域は、正の調節因子OmpRタンパク質の作用部位であることが示唆された。このことは、-10領域の塩基置換により、上流領域を必要とせず発現するompC,ompFプロモーター変異株を作成することによっても確められた。(2).ompC,ompF遺伝子の発現調節に重要な調節遺伝子ompR,envZの産物及びその性質を明らかにした。OmpRタンパク質はompC,ompF遺伝子の活性化に必須な正の調節因子(アクチィベーター)であることが明らかになった。ompR遺伝子の変異により、調節の様式が変化する多種類のompR変異株を分離解析し、OmpRタンパク質が機能上重要な二つの領域からなることが示された。OmpRタンパク質を多量に精製することに成功し、生化学的解析を行なった。精製OmpRタンパク質を用いることにより、OmpRタンパク質が、ompC,ompFプロモーター上流の特異的領域に直接結合することを証明した。EnvZタンパク質は培地浸透圧に応答したompC,ompFの発現調節に重要であることが、envZ遺伝子の欠失変異株を作成することにより明らかとなった。これらOmpRとEnvZ両タンパク質が機能的に相互作用していることが、遺伝学的解析から示された。以上、本研究により、環境の変化に応答して特異的遺伝子が活性化される正の調節系の分子レベルでの研究としては、その解析が最も進んだ系にまで研究を進めることができたと考えている。今後、より一般的な新しい概念が導き出させることが期待される。
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