研究概要 |
シスタチオニンは生体内でメチオニンからシステインに変換される際の重要な代謝中間体であり、二つのアミノ酸がチオエーテル結合した二つの不整炭素原子を含むきわめて高価な生理活性アミノ酸である。シスタチオニン合成酵素の欠損によっておこるホモシスチン尿症の患者の脳内に顕著なシスタチオニン欠乏が見られ、シスタチオニン投与による治療法が期待されている。我々は新規な酵素的シスタチオニン合成法の確立を目的として研究を進めてきた。60年度において、放線菌Strptomyces phaeochromogenesのシスタチオニンγ-リアーゼ(EC4,4,1,1)のγ-置換反応を用いるL-シスタチオニン合成を検討した。L-ホモシステインとL-システインを基質として用いた反応では、L-システインがアロステリック阻害剤として作用するためこれを反応進行に伴い遂次添加することが高収量の達成に必須であった。最適条件Fで3.1g/lのL-シスタチオニン合成が認められた。L-ホモセリンの代わりに、DL-ビニルグリシン,O-サクシニル-L-ホモセリンを用いると、約11g/lのL-シスタチオニン合成が達成された。61年度において、細菌のシスタチオニンγ-シンターゼ(EC4,2,99,9)を用いるL-シスタチオニン合成を検討した。高活性菌としてErwiria carotorora,Bacillus sphaericusを見出し、これらの酵素を精製し、諸性質を明らかにした。両酵素を用いた場合、共に40〜42g/lのL-シスタチオニン合成が約90%の転換率で生成した。シスタチオニンγ-シンターゼは、(1)生成物であるL-シスタチオニンの分解反応を触媒しない、(2)L-システインによるアロステリック阻害を受けない、(3)比活性が高く反応性が高いという利点があり、L-シスタチオニン合成を行う場合、シスタチオニンγ-シンターゼを用いる方がシスタチオニンγ-リアーゼよりもより実用的であると結論づけることができた。また両酵素を用いて、種々のL-ホモシステイン関連アミノ酸を酵素合成できることを明らかにした。
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