研究概要 |
植物病原菌の多くは糸状菌であり, その病害防除は農業上重要な課題である. 本研究では微生物が増殖し過密状態となる定常期に自己の生育を制御する自己生育阻害物質を産生する事に着目し, 植物病原糸状菌に対する有効な物質の研究をそれらの自己生育阻害物質の探索という新しい観点から行うと共にその代謝化学的な性質を明らかにする. これは選択性に優れた新農業用殺菌剤等を効果的に開発する一つの試みであり, 以下に示す興味ある新しい知見と共にその有用性を示す結果を得る事ができた. 1-(1).オウトウ灰星病菌の生産する自己生育阻害物質として新規抗糸状菌物質クロロモニリシン(I)を単離し, その特異な不飽和七員環ラクトン構造と植物病原菌類に対する強い作用を明らかにした. また, Iの生合成前駆体と考えられる新キサントンの4-クロロピンセリン(II)を単離同定した. 1-(2).Iの臭素同族体ブロモモニリシンの発酵生産にも成功し, その活性を明らかにすると共に取り込み実験からその生合成前駆体は4-ブロモピンセリンである事を証明した. また, ブロモモニリシン発酵液中に生産蓄積された新ベンゾフエノンを単離構造決定レモニリフエノン(III)と命名すると共にその重水素ラベル化合物を調製し, IIIがII, Iの生合成中間体である事を明らかにした. 1-(3), 菌体中に生産蓄積されたIが代謝分離され, 菌体外に分泌される新代謝物を単離し, クロロモニリン酸AおよびB(VI, V)と命名すると共にそれらの化学構造を決定した. VIおよびVは自己生育阻害をほとんど示さない特異なIの還元開環分解物であった. 2.カキ円星病菌の培養菌体から構造類似の2種類の自己生育阻害物質を単離し, その一つをウスニン酸イソメトキシドと同定したが, これは糸状菌としては最初と思われる. 3.オウトウ炭疽病菌の培養液から自己生育阻害活性を示すアルコール化合物を分離したが, メタノリシス反応により失活する不安定な化合物であった.
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