研究概要 |
貯蔵中に魚肉中で進行する諸変化、とくに筋肉中の酵素の作用による諸変化に及ぼす貯蔵温度の影響を検討し、近年注目を集めている氷温貯蔵や半凍結貯蔵の有効性と限界を明らかにするのが、本研究の目的である。昭和60・61年の研究成果はつぎのようにまとめられる。 1.イノシン酸分解速度と貯蔵温度 イノシン酸の分解は主として5'-ヌクレオチダーゼによって起こり、その分解程度すなわちK値は魚肉の品質指標として定評がある。魚肉貯蔵中のイノシン酸分解のArrheniusプロットを求めたところ、魚肉の氷結点と、魚種に固有の0℃以上の特定温度とで、同プロットに折れ曲がり点が認められ、それぞれの折れ曲がり温度以下で、見掛けの活性化エネルギーが不連続に急増した。凍結防止剤や界面活性剤の利用、脂質の熱分析などによって、魚肉の氷結点付近での同プロットの折れ曲がりの原因は水の氷結、0℃以上の特定温度での折れ曲がりの原因はミクロソーム中の膜脂質の相転移によると推論した。 2.その他諸成分の変化速度と貯蔵温度 魚肉の脂質の酵素的加水分解,魚肉蛋白質の塩溶性の変化,魚肉保水性や細胞状態の変化などについて、貯蔵温度の影響を検討したところ、これらの諸変化は、上記のK値変化の場合と違って、0℃以下で強く抑制されるとは限らなかった。脂質の分解,保水性の喪失,細胞の変形などは、-4℃においては、0℃におけるより速やかに進行した。したがって、半凍結貯蔵における魚肉品質保持期間はK値の測定結果から推論されている期間よりかなり短いと考えられる。そして、半凍結貯蔵魚の品質は、K値より肉質や脂質の変化によって、より強く規定されると判断した。
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