研究概要 |
放射線によるDNA塩基成分のヒドロキシル化と生体細胞不活性化の関係を明らかにするため、主としてチミン,チミジン,チミジン-5'-モノホスフェイトの水溶液中における放射性化学反応性について研究した。また、これらDNA関連化合物の放射線化学反応に及ぼす第三成分の作用について調べ、培養細胞の放射線不活性化における作用と比較した。成果を以下に要約する。 1.水溶液中における放射線分解のG値は、チミン<チミジン<チミジン-5'-モノホスフェイトの順に増大するが、その増分はあまり大きくない。核酸塩基であるチミンにデオキシリボースおよびそのホスフェイトが結合すると放射線感受性が増大するのは、1-置換側鎖の損傷を併発するためである。 2.酸素はチミン誘導体の放射線ヒドロキシル化を促進してグリコールを多量に生成し、放射線ジヒドロ化を抑制する。また、酸素が共存するとチミンとデオキシリボースの結合開裂およびリン酸脱離が促進される。 3.生体内防護物質であるグルタチオンは酸素が共存しない場合にチミン誘導体の放射線分解を抑制する。グルタチオンは水酸ラジカルを捕促してグリコール生成を阻害し、水素原子供与作用によってジヒドロチミン誘導体生成の選択率を増大させる。グルタチオンは酸素と容易に反応して酸化型グルタチオンに変化、放射線防護活性を失う。 4.電子受容性化合物,安定ラジカル,電子供与性化合物,および高原子価遷移金属錯体はいずれも無酸素条件下においてチミンの放射線ヒドロキシル化を促進するが、デオキシリボースが結合したチミジンやチミジン-5'-モノホスフェイトに対しては不活性なものも多い。 5.培養細胞の放射線不活性化と放射線化学反応系における核酸塩基、特にチミンのヒドロキシル化によるチミングリコール生成量の間に明確な相関が認められる。
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