研究概要 |
乾燥した山野草を移植後の水田表面に敷き、その肥効に依存するのみで、水稲栽培をおこなうところの伝統農法である刈敷法の原理に注目し、それを作物栄養生理の面から解析をおこなった。 肥沃な客土水田で刈敷法による水稲栽培を無化学肥料で実施すると、単収は580〜730kg/10aの高収量をあげることができ、単収はアシの刈敷量に比例した。 試験用の有底箱水田で、刈敷材料の種類および、これに加えて醗酵なたね油粕による基肥、追肥の効果を検討した結果、アシ,ネザサの効果はワラビ,ススキよりも優れており、アシに醗酵なたね油粕を基肥,穂肥と加用した区の単収は446kg/10aで化学肥料区の309kg/10aを大幅に上廻った。 水田表層に施用した刈敷材料の分解率は、ワラビ50%,ススキ30%,ネザサ24%,アシ22%であって、各材料の相当量は収穫後の水田に残存するので、これが土壌と混和、腐熟すれば腐植の補給に効果的である。また、アシ風乾重1tの刈敷による珪酸の供給量は33kg/10a程度であるが、刈敷によって土壌中の珪酸が有効化され、土壌改良資材を用いた区と大差ない吸収量を示した。 刈敷法は、その実施にあたって材料の水田搬入に労力を多く要するので、この軽減と刈敷材料の腐熟過程で溶出する汁液の肥効を活用する目的で、温水堆肥を考案した。温水堆肥より溶出すれ汁液の肥効を、実際の水田ならびに実験用箱水田で検証した結果、いずれも増収効果を認めた。 アシ,ササ,青刈ムギをそれぞれ温水堆肥とした場合、乾物材料1kgより溶出するN量は9〜17g,P量約2g,K量14〜35g,【SiO_2】量7〜16gであったが、これらの3分の2は土壌へ吸着、又は空中への脱窒がみられた。 刈敷法は、末分解有機物を田面におくことで、分解時におこる土壌還元を防止し、材料から溶出する汁液の肥効を利用するものであることが明らかとなった。
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