研究概要 |
日本ナシの樹体内貯蔵養分と樹勢,果実生産との関係を明らかにするため二十世紀の幼木(3年生),成木(17年生)および老木(62年生)について枝と根中の炭水化物およびチッソ成分の動きを調査した。 1.日本ナシ樹体の主な貯蔵養分は炭水化物とチッソ成分である。炭水化物はデンプンと可溶性糖類のソルビトール,フラクトース,グルコース,シュウクロースの4種で構成され、貯蔵の主体はデンプンとソルビトールであった。チッソ成分はタンパク質と可溶性チッソの一つアミノ酸で構成され、アミノ酸の中ではアルギニンが最も多く含まれていた。 2.幼木,成木,老木のいずれにおいても若い枝ほど炭水化物、チッソともに含有率が高かった。それぞれの樹について両成分の最も多く貯蔵される部位をみると、幼木では新梢と太根,成木では10〜15年生の主枝と亜主枝および太根,老木では30年生までの枝と太根であった。 3.各成分の季節的変化をみると、枝では秋にデンプンが増加し新生器官の展開する4月から5年に著しく減少した。糖は秋から冬にかけて著しく増加し春に減少した。根においてはデンプン,糖ともに冬から春にかけて増加した。全チッソは夏から秋にかけて増加し、新生器官の展開に伴って減少した。アルギニンを主とするアミノ酸は低温期に減少し、2月下旬から萌芽期の4月上旬にに著しく増加した。 4.成木では樹体のすべての部位が貯蔵器官としての能力をもち、5月の養分転換期以後にも多くのデンプン,チッソを余剰養分として貯蔵していたのに対し、老木では30年生以上の木部が貯蔵機能を失っているため、樹全体としての養分貯蔵量が少なくなり、5月以後の余剰養分量も少なくなることが認められた。この余剰養分量の少ないことが老木の樹勢が低下しやすいことの原因とみなされた。
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