研究概要 |
セレンは動物にとって必須微量元素であり, グルタチオンペルオキシグーゼ(GSH-P_X)の反応中心を構成し, 生体内過酸化脂質の分解除去に寄与しているほか, 薬物代謝やアラキシドン酸代謝などにも関与している. セレン欠乏症状は, ラットでは肝臓壊死, ニワトリ雛では浸出性素質, ウシ・ヒツジでは白筋症などの筋肉障害が顕れる. またヒトに急性心臓障害を起こす克山病, 関節障害をひきおこすカシンペック氏病もセレンの欠乏が関係していることが知られている. しかし, これらのセレン欠乏症の発症機構に関しては, 未解明なところが多かった. 従来のセレン欠乏症に関する研究の多くは, セレンとトコフェロールの欠乏を重畳させている. そのためにセレンのみの欠乏による障害の発生とその発生機構に関しての情報が不足していた. 本研究では, セレンのみの欠乏状態に長期間おかれた実験動物にどのような生理的変化が起きるかを, Wistar系ラットを用いてさまざまな視点から検討した. その結果次のようなことが明らかになった. 1 セレンの単独欠乏で脱毛, 血液像の変化などが認められ, 肝臓, 心臓組織にも変性が認められた. しかし一般に言われている肝臓壊死などの変化は見られなかった. 2 セレン欠乏による赤血球の機能変化を溶血感受性という観点から追求した. tert-ブチルヒドロペルオキシド惹起溶血に対する感受性がセレン欠乏ラットでは著しく亢進した. この溶血は還元型グルタチオンおよびトコフェロールによって仰制されないがGSH-Pxがそれを仰制することが判明した. 赤血球の機能維持に対するセレンの作用機構を分子レベルで考察した. また本溶血反応のセレン欠乏症の早期診断への利用の可能性についても検討した. 3 セレン欠乏ラットについて長期間にわたり心電図を測定して心臓機能の変化を追跡し, セレン単独の欠乏で心臓機能に異常が起きることを明らかにし, セレンの筋肉障害防止における重要性が示された.
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