研究概要 |
耐塩性の異なるアツケシソウ,ハマアカザ,ワタ,ホウレンソウ,トマトおよびキュウリを材料とし、葉および根の脂質を分析した。耐塩性の強い植物と弱い植物との間で比較すると、葉の脂質組成は相対的に類似していたが根の脂質組成は大きく異なり、耐塩性の強い植物は糖脂質が多く耐塩性の弱い植物はリン脂質が多くなっており、リン脂質糖脂質の含量比が耐塩性と相関性があることがわかった。また、脂質分子種を分析すると、グリセロ糖脂質の分子種は各植物何れも18:3/19:3を多くもつ傾向があり、リン脂質では、耐塩性の強い植物と弱い植物との間で異なり、前者では18:2/16:0が多く後者では18:3/16:0が多くなっていた 次に ハマアカザを塩濃度の異なる培地で培養すると、根の脂質は塩濃度が高くなるほど糖脂質が多く 低くなるほどリン脂質が多くなり、上記結果と一致した結果を示した。ついで、根の脂質から人工脂質膜をつくり、そのイオン透過性を調べた。耐塩性の強いハマアカザの根脂質は耐塩性の弱いキュウリの脂質より【Na^+】【Cl^-】の高い透過性を示しこのイオン透過性を高めているのは糖脂質であることがわかった。次に インタクトの根を用いてイオン透過性を比較した。ハマアカザの根は、キュウリの根の5.6倍も速い【Cl^-】透過速度 また【Na^+】は6.6倍も速い透過速度を示した。次に、能動的選択的イオン吸収に重要な役割を演じている原形質膜ATPaseの活性を比較した。ハマアカザに比較してキュウリは原形質膜ATPaseの活性が強く、相対的にハマアカザは原形質膜ATPase以外のATPase(酸性ホスファターゼ等)活性が多く認められた。以上の結果より、耐塩性の強い植物は受動的イオン吸収を高めて高濃度塩環境に対する浸透圧調節をするのに対し、耐塩性の弱い植物は能動的選択的イオン吸収が強く、従って環境の塩度が少し高くなるとこれに抗しきれなくなるのであろう。
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