研究概要 |
近年、単胃動物において下部消化管に流入するグルコース,脂肪,アミノ酸あるいは消化物の浸透圧が認識され、胃運動を調節したり、採食量を制禦したりすることが報告されている。しかし、反芻動物においてはその生理的,形態的特徴から、第一胃又は生成発酵産物を中心に研究が行われ、下部消化管に注目し、特にその採食量調節に占める役割について研究した例はみられない。よって本研究ではめん羊を用い、以下に述べる実験を行った。方法:めん羊の幽門直下の十二指腸にT字型カニューレを装着し、カニューレ口から流出する第四胃内容物の測定、あるいは同カニューレから下部消化管への種々の物質の注入、ならびに、これらに伴う第一胃,第四胃運動の変化および採食量の測定などを行った。 結果:まず正常採食時に第四胃流出物量の変化を測定したところ、流出量最大時に採食を停止することを知った。そこで十二指腸内に各VFA,グルコース,乳酸などを注入したところ、VFA注入時にのみ採食量が抑制されることを知った。同量のVFAを腸間膜静脈内に注入しても採食量に影響はみられなかった。次にVFA中酢酸のみを選び、種々の濃度溶液ならびに高浸透圧溶液などを注入したところ、62mM以上の濃度の酢酸溶液の注入によって第四胃流出物および採食量の低下がみられた。以上の結果から一定濃度以上の酢酸溶液は胃運動を抑制することが予想されたことから、酢酸溶液を注入しつつ、第一胃,第四胃運動を測定したところ、明らかな抑制がみられた。しかるに、酢酸溶液に局所麻酔剤であるテトラカインを混和して注入したところ、抑制は明らかに緩和された。すなわち、酢酸を受容する下部消化管部位は管腔側において認識され、神経を介して中枢へ伝達されるものと考えられた。以上、本研究は酢酸が下部消化管において受容され、採食量調節の一因となることを初めて明らかにした。
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