研究概要 |
橋津川汽水域における我々の疫学調査でここに生息するイシマキガイ及びヤマトシジミから高濃度の腸炎ビブリオが検出されたこと, イシマキガイ由来菌の多くがゲル内沈降反応で神奈川溶血毒産生菌と判明したことから, 腸炎ビブリオと汽水産貝類の密接な関係が予想された. そこで両者の相互関係の実態を解明する目的でイシマキガイ, ヤマトシジミ及び海産巻貝のアマオブネを水槽内で飼育し, これに神奈川現象陽性腸炎ビブリオD-3株, 神奈川現象陰性腸炎ビブリオR-13株及び大腸菌YS-2株を投与して貝体内での生残量を測定した. その結果, イシマキガイの体内には3株とも投与後21日目まで生残すること, ヤマトシジミの体内には腸炎ビブリオは生残するが大腸菌は14〜21日目までに消失すること, アマオブネからは3株とも投与後3日以内に消失することが明らかになった. イシマキガイと同じ汽水域に生息するヤマトシジミから神奈川溶血毒産生菌が検出されなかったのはゲル内沈降反応の検出感度が低いためと考えられることから, 汽水域由来の培養上清に含まれる微量の神奈川溶血毒を酵素抗体法で検出する方法を検討した. その結果, 培養上清の100°C30分加熱により橋津川のイシマキガイ由来菌36株中9株, ヤマトシジミ由来菌35株中21株から神奈川溶血毒が検出された. 腸炎ビブリオ及び大腸菌に対する3種類の貝の排除応答の差は貝の血液細胞の反応性の差に由来すると考え, Blind well chamberを用いて3菌株の生菌及び死菌に対する3種類の貝の血液細胞の遊走能を比較した. その結果, アマオブネの血液細胞は3菌株に対して活発に遊走したが, イシマキガイの血液細胞はいずれの菌株に対しても遊走しなかった. ヤマトシジミではいずれの菌株に対しても遊走しない細胞と大腸菌にたいしてのみ遊走する細胞が認められた.
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