本研究の目的は、虚血・再灌流不整脈発現機序に心筋α-受容器が病態生理学的に関与しているかどうか明らかにすることである。まずその第一段階として、ラット左室乳頭筋におけるα-受容器刺激の電気生理学的影響および収縮力におよぼす影響を検討し、陽性変力作用と時間的に一致する活動電位幅の増加を確認した。附け加えて、α-受容器刺激は膜電位の過分極を惹起することを新に見い出した。最近の研究は、再灌流不整脈の発現にはoxygen free radicalの産生とそれによる膜脂質の過酸化が関与していることを指摘している。そこで、cumene hydroperaxideおよびt-butyl hydroperoxideによって膜脂質の過酸化をおこし、Oxygen free radicalの作用を模倣することを試みたところ、モルモット摘出右室乳頭筋においてこれらの物質は極めて顕著な電気生理学変化をおこすことを見い出した。これらの変化は生体位心臓において不整脈発生の基盤と十分になり得るものであった。しかしながら、この電気生理学的変化に心筋α-受容器刺激は何ら影響を与えなかった。モルモット摘出灌流心を虚血もしくは虚血・再灌流の条件におき、α-受容器数の変化を〔3H〕-prazosinを用いて測定した。これらの操作はいずれもα-受容器数を増加させたが、同時に親和性の低下をもたらした。 結論として、確かに虚血もしくは虚血・再灌流は心筋α-受容器動態に影響を与え得るが、影響を受けたα-受容器の病態生理学意義は、膜脂質過酸化およびその結果である膜機能の失調という過程以外の虚血によって生ずる生化学的過程に求められなければならないと思われる。
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