研究概要 |
冠動脈に閉塞がおこると心筋が虚血状態になる。心筋が虚血になると、生理的,生化学的,組織学的変化がおこる。我々の研究室では、虚血になると心筋がアシドーシスとなり、β-遮断薬であるプロプラノロールは、このアシドーシスを減弱することを報告してきた。虚血になるとなぜ心筋がアシドーシスになるのかはまだ不明であるが、心筋内に遊離脂肪酸が蓄積することがアシドーシスに関連しているものと予想された。 そこで本実験では、虚血にすると心筋に遊離脂肪酸の蓄積がおこるのか否かをまず検討した。それには心筋内の遊離脂肪酸を正確に測定しなければならない。本研究ではADAM試薬を用いる方法が最も簡便で、しかも信頼性の高いことを見出し、この方法を用いて脂肪酸を蛍光標識し、高速液体クロマトグラフィーで分離して蛍光測定を行ない各脂肪酸の同定と定量を行なった。動物としては犬を用いた。正常心筋中の遊離脂肪酸含量はラウリン酸10.23ミリスチン酸48.29,パルミトレン酸7.53,アラキドン酸25.48,リノレン酸106.61,パルミチン酸135.02,オレイン酸78.58,ステアリン酸57.47mmol/gwet tissueであった。冠動脈を結紮すると(90分間)これら脂肪酸含量はいずれも上昇した(1.70-3.38倍)。中でもアラキドン酸の上昇は最も著しかった。このことは、虚血によって心筋内の中性脂肪およびリン脂質の分解がおこっていることを示唆する。冠動脈結紮5分前にプロプラノロール(1mg/kg)を投与すると、虚血による心筋内遊離脂肪酸の上昇は完全に抑制された。α-プロプラノロールもプロプラノロール同様の効果を示した。この結果から、虚血により心筋内にカテコールアミンが遊離し、これが心筋内遊離脂肪酸の上昇をおこすことが結論された。しかしプロプラノロールの膜安定化作用も脂肪酸上昇抑制に関連あるものと思われる。
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