研究概要 |
ヒト膀胱における前癌病変やさらに癌にいたる諸変化を解明するために313剖検例の膀胱を展開固定し, 粘膜全体を病理組織学的に検索し, 各病変の分布と加齢による推移を検討するとともに, 手術例より得られた材料を用いて, 膀胱粘膜の酵素組織化学および免疫組織化学を行なった. その結果, ブルン細胞巣, 腺性膀胱炎などの増殖性膀胱炎や化生性病変は年齢に関係なく高頻度に認められ, 膀胱癌との関連性は否定的と考えられた. しかし上皮過形成や上皮異形成は高齢者に多くみられる傾向があり, また発生分布も癌の好発部位である側壁あるいは前後壁におおく, 膀胱癌との関連性が強く示唆された. 特に上皮異形成は組織学的異型もはっきりとしており, 前癌病変としての重要性が高いことが示された. また正常および膀胱癌上皮について17種類の諸酵素の変動を酵素組織学および免疫組織化学的に検索し比較した結果, 癌組織ではアルカリフォスフォターゼ(ALP)の軽度の減少, β-グルタミールトランスペプチダーゼ(GTP)と酸フォスファターゼ(ACP)の軽度の上昇, β-グルクロニダーゼ(β-GL)の中等度の上昇, コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)とG6Pデヒドロゲナーゼ(G6PDH)の高度の上昇を, チトクロームP-450のa, b, c, dの4分子種とも軽度から中等度の上昇を, グルタチオンS-トランスペプチターゼ(GST)のμ, π, Iの3型のうちπの軽度の減少を認めた. 癌胎児性抗原(CEA)は軽度上昇していた. 以上ALPの減少, CEAの出現は癌細胞に共通の脱分化に関与したのであり, P-450の増加と抱合酵素のGST-πの減少は発癌物質の代謝活性化の亢進と同時に解毒機能の低下を示唆するものとか解される. これらのデータからヒト膀胱癌の指標酵素としてはG6PDHとSDHが注目される.
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