研究概要 |
1.クルーズトリパノーマのTrypomastigoteの病原力を決定づけるのは宿主細胞への浸入の速さにあるのではなく, その後の細胞内での原虫の形態変化から増殖に至る過程にある. この現象を追うのにL細胞のような株化細胞は不適当である. 同一株由来の病原力の異るTrypomastigoteを単離し, マウスマクロファージ, マウス新生児由来の線維芽細胞に対する感染実験の結果, 細胞浸入能には両者に大きな差を認めなかったが, 浸入後強毒株はすぐ形態変化, 分裂を開始するのに比し, 弱毒株では分裂開始までに48時間以上を要する. 2.Trypomastigoteの細胞表面には30を越す数多くの抗原性蛋白が存在し, それらのいずれもが特に抗原として優勢でなく, 細胞表面全体に密に存在することもない. しかも全体としての抗原性は弱く, とくに血流型は弱い. このことは感染治療または免疫マウスより得た抗血清を用いて, 生原虫に対する凝集反応を行うと凝集価を認めないこと, 間接蛍光抗体法では, 蛍光陽性原虫が血流型では40倍, 細胞培養由来のものでは320倍希釈まで凝集を示すことから予想された. 事実原虫表面に吸着させて得た表面抗原に対する抗血清を用いたイミュノブロッティングは30余りの抗原を示した. 3.Trypomastigoteの表面成分には脂質様成分が認められ, これは強毒原虫に特異的に多い. 生きた原虫をトリプシン処理することにより虫体より分離される成分をSDS-PAGEにて比較した. ゲルのトリクロル酢酸(10%)固定にて白色沈澱として37kDaから50kDaにいたる未確定物質が認められ, これは強毒原虫に著名に多い. アセトンによる前処理がこれを消滅させることより脂質様成分と考えている.
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