研究概要 |
ウィルス感染は細胞膜レセプターへの吸着を起点とし細胞質内へのウィルスゲノム注入を以て終了する. ワクケニアウィルスの場合, 感染初期の形態学的観察ではウィルス外層膜と細胞膜の融合像がみられ, 細胞質内に侵入したウィルスは外層構造が失われている. また細胞傷害性Tリンパ細胞の標的となる抗原はウィルス粒子外層成分である. したがって, このウィルスの侵入様式はウィルスと細胞膜の融合であって, ウィルス外層膜の構成成分に侵入機能が担われている. 膜融合による侵入は生体膜の開裂と融合の制御機構に関わり病原性決定の主要な段階をなすので, 各蛋白の機能を明らかにしその素過程を認識する必要がある. 我々が侵入機構解析の手がかりとしたのは, ワクケニアウィルスを細胞膜と反応させると, 外層成分に変化を生じる結果感染性が顕著に上昇する現象である. この反応にはフォスファケジルセリン(PS)とセリンプロテアーゼという少くとも2種類の細胞膜成分が関与し, PSはウィルス粒子外層にとりこまれることによって, またプロテアーゼはウィルス外層蛋白VP34Kを41Kに分断することによって, ウィルスの感染効率を高めることを明らかにした. 更に, VP32Kに対する単ワローン抗体を用いて感染性上昇にともなう抗原性の変化を解析し, 感染成立のための主要な段階が吸着段階ではなく, ウィルス膜と細胞膜の融合する段階であること, ワクケニアウィルスの外層にある4種類の蛋白が順次機能を発揮してゆく多段階現象であることを示した. 今后この知見を発展させ, 細胞膜-ウィルス膜融合に到る反応連鎖の詳細を, これまでに作成し検定して来た単クローン抗体を利用して, 遺伝子工学的手法により明らかにしたいと考える.
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