研究概要 |
生体内に取り込まれた重金属は、遅速の差はあるが臓器間を移動してやがて体外に排泄される。生理的にこの役割を果しているのは、チオスルフィドリル化合物であろうと予測してきた。そこで新しく合成したチオシステアミン(TC),S-アセチルチオシステアミン(ATC),チオタウリン(TT)を用いて重金属特にメチル水銀(MM)とカドミウム(Cd)を標的に、動物臓器からの解離,排泄効果を検討した。 1 in vitro実験;MMを投与した臓器(肝,腎,脳)にTCを添加すると40〜90%のMMが解離され、予めTCを取り込ませた組織にMMを添加しても同様にMMが解離した。その解離したMMは大部分ビスメチル水銀サルファイドであった。しかし100分間反応させた組織にはTCによるMMの解離効果は認められず、それ故TCの速い分解が判明した。Cdを投与した肝にTCを添加すると上清/沈渣のCd比も、蛋白分画中Cdも変化しなかった。しかしZnについてはメタロチオネイン分画で変化が認められた。 2 in vivo実験;マウスにMMを投与して3〜4日後薬物を種々の条件で投与した。TCの単独投与では尿中水銀排泄量が3倍に増加したが、臓器中水銀量では腎のみ低下を認めた。ブルタチオン、システアミンや脂肪乳剤と混合投与でも著しい水銀排泄量の増加は認められなかった。又ATCとTTについても殆んど効果は認められなかった。Cd投与マウスにTCを投与しても肝腎中のCd,Zn量について差は認められなかった。 以上合成したチオスルフィドリル化合物のうちTCのみin vitro実験で重金属代謝に影響を及ぼした。しかしin vivo実験で予期した程の成果が得られなかったのは、TC等は化学的に不安定で標的臓器に到達し難いことが一因と考えられた。今後、-S-SH基のH端をより安定なアルキルで保護すれば重金属中毒の解毒に有効と考え検討を継続する。
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