研究概要 |
日本の水工家具工場での家具製造使用樹種の調査を行った結果, 使用樹種は戦後木材の需要, 供給のため, その変遷が著しく, 一定していないことが判った. 最近は, 北米材, 南洋材が用いられることが多くなった. 今回, 過去日本でも用いられ, また欧米で鼻の癌の原因として疑われている硬材の1つであるブナ材を選び, ラットを用いて, 木粉の長期吸入暴露実験を行った. 試作したベルトサンダーでブナ材木粉を発生させ, 直接吸入暴露チャンバーに飼育されているWister系雄性ラット20匹に暴露した. 暴露条件は, 1日6時間, 週5日で6ヶ月間行った. 暴露濃度は, 6ヶ月間の1日平均値で, 15.1mg/m^3であった. また, 暴露期間中の木粉の平均粒径は, 7.4μmであった. なお, 対照群ラット20匹は, 隣接したチャンバーで飼育した. ラットは1年間清浄空気にて飼育した後, 断頭屠殺した. 病理学的検索はラット頭部, 肺, 肝, 腎, 脾, 膵について行った. 暴露開始後から暴露終了までの6ヶ月間, さらにその後の1年間の飼育期間において, 暴露群と非暴露群の間には, 体重増加に差は認められなかった. また, 解剖時の臓器重量も両群の間に差を認めなかった. 病理学的検索の結果, 頭部(鼻腔・副鼻腔)では, 実験群の2匹に軽い化膿性鼻炎がみられた他は, 実験群・対照群ともに著変はみられなかった. 肺では実験群の1匹と対照群の1匹に高度のうっ血水腫がみられた. 両群とも著明な炎症像はなく, 腫瘍発生は認められなかった. その他の臓器では対照群の1匹に肝細胞癌, 対照群と実験群の1匹ずつに悪性リンパ腫, 対照群の1匹に膵Acinar cell adenomaがみられた. 以上の如く, 実験群と対照群に腫瘍発生の差は認められなかった. しかし, 実験動物数も少なく, 木粉暴露で腫瘍発生がないとは断定できない. 今後さらに研究が必要と考えられる.
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