研究概要 |
加齢に伴いT細胞は抗原やマイトゲンに対する分泌反応が低下することが知られていたが, そのメカニズムについては詳細は不明であった. これを解明するために研究を行い以下のことを明らかにした. T細胞を抗原やマイトゲンで刺激培養すると, DNA合成は老年者では若年者に比較し著名に低下しているが, コルヒチン存在下に同じ日数培養して各24時間のDNA合成を合計すると, 老年者と若年者の差は少ない. コルヒチンはDNA合成には影響しないが細胞周期をM期で止めるので, 培養期間に初めて細胞周期に入った細胞数を知ることができる. 即ち, 老年者のT細胞は分裂を繰り返す能力が低下しているので, 分裂を繰り返す毎に差が増体すると考えられる. T細胞はIL-2により増殖するが, IL-2レセプターは老年者のT細胞で減少しており, 特に高親和性レセプターの減少が著しかった. T細胞が生産する免疫調節因子としてIL-2は重要であるが, その産生量は老年者のT細胞において若年者の約1/10に低下していた. IL-2レセプター陽性細胞を分別採取し, これにIL-2を添加してDNA合成の増強をみると, 若年者のT細胞に比べ老年者のT細胞は増強の程度が小さかった. 正常な免疫応答を行なうには, その担当クローンが分裂増殖を繰り返しクローン増幅を行い, ある一定の数に達する必要がある. 老人ではこのクローン増幅過程が特に障害されていると考えられる. B細胞について同様の実験を行い, やはり分裂繰返し能の低下が分裂増殖の低下の大きな原因になっていることを示した. しかし, 老人T細胞は若年者T細胞よりも多くのB細胞分化因子を産生することが判り, また一定〓のB細胞分化因子による抗体産生細胞への分化は老人B細胞でより誘導され易いことが判り, このような変化は分裂能の低下を代償的に補っている可能性もある.
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