研究概要 |
1.基礎実験-(1)疾患モデル肺のプロトンNMR緩和時間:心原性肺水腫と非心原性肺水腫,活動性間質性肺炎と器質性した線維化肺,炎症性病変と悪性病変では、緩和時間【T_1】,【T_2】はそれぞれ特徴的な変化を示し、各々の病変とその経過を捉える上で鋭敏な指標となりえることが判明した。このことは各病態において水動態が異なること、この差が【T_1】,【T_2】の緩和のメカニズムの差により分別できることを意味する。(2)他核種のNMR:肺組織のNaスペクトルを明瞭に捉えることが可能であった。Naシフト試薬を肺動脈から注入することにより、組織の細胞内,細胞外のNaを分離することが出来、この方法を用いて細胞外のNaの定量、病変時のNa動態を知ることが可能である。Naシフト試薬によるプロトンの化学シフトを利用することで細胞内外における水の緩和時間変化を別々に捉えることが出来ると考えられる。 2.MRIへの臨床応用研究:(1)基礎実験にて見られた緩和時間変化が実際のヒト肺病変でも認められることを確認するためにヒト手術摘出肺を用い、癌,壊死,炎症,正常肺,リンパ節,血清などの【T_1】,【T_2】を測定した。(2)各種病変の緩和時間を用いて、病変間の鑑別診断の可能性を検討し、最適撮像条件決定のための信号強度シミュレーションを行なった。質的鑑別診断能力すなわち病理学的差異を信号強度差として描出する能力は【T_2】強調画像が優れていた。(3)ヒトMRIでは、(1),(2)で予測されたように、肺癌と壊死の鑑別、急性炎症性変化と線維化肺,肺癌と放射線線維化肺の鑑別は2つ以上の異なる撮像法を行ない【T_1】,【T_2】の変化の方向を知ることで可能であった。しかし、急性炎症を呈する閉塞性肺炎と肺癌(壊死を含まない)の鑑別は困難と考えられる。 NMRは、基礎的病態解明を臨床診断への応用に直結できるきわめて優れた医学の方法であることが証明された。
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