研究概要 |
東洋人と西洋人の間には, アルコールに対する感受性に差異のあることが経験的に知られている. 最近, 東洋人のおよそ半数にみられるアルデヒド脱水素酵素I型アイソザイム(ALDH-I)の欠損が, この差異の理由であると報告された. 本研究では, 世界各地の10施設の協力を得て, 各人種におけるALDH+I欠損の頻度を調査し, このアイソザイムの欠損がアルコール感受性, 飲酒習慣の形成およびアルコール症の発症におよぼす影響について検討した. ALDHアイソザイムの分析は, 毛根20〜30本を試料とする等電点電気泳動法によって行った. 試料は, 日本, 台湾およびフィリピンでは我々が直接採取し, その他の地域では各施設が採取し, 凍結して空輸された. その結果, 次のような所見を得た. (1)日本人では対照の43%(50/117), 台湾では35%(14/40), フィリピンでは12%(4/34)に, ALDH-Iの欠損を認めた. これとは対照的に, 東洋人以外の民族すなわち, ヨーロッパ(57例), オーストラリア(12例), インド(26例), モロッコ(31例), メキシコ(20例)では, 1例の欠損も認められなかった. (2)アルコール症患者では, 日本では4%(5/113), 台湾では10%(3/29)にのみALDH-I欠損例を認め, それぞれの国の対照群と比べ, 有意に少なかった. (3)ALDH-Iの欠損例は, 飲酒時にフラッシング症候を呈しやすく, 飲酒習慣を有する割合が, 保有例に比べ少なかった. 以上から, ALDH-Iの欠損例はアジア人に限定されること, またこの酵素の欠損は, フラッシング症候と密接な関連をもち, 飲酒習慣の形成やアルコール症の発症に抑制的に働くことが示唆された.
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