研究概要 |
非神経疾患および筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の剖検時に脳脊髄の一部を採取し, その凍結乾燥切片を調製した. 切片より下記のニューロンの単一細胞や層構造を分離し, それらのコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)活性, グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)活性, γ-アミノ酪酸(GABA)濃度を測定した. また網膜変性症マウスの変性網膜についても分析した. 1)ALS脊髄運動ニューロンは原因不明の病変に侵され, 変性萎縮して小型化し, 終には脱落する. 病変の進行していない症例の脊髄前角は大型ニューロンが見られ, 進行した症例ではミクロナイフで単離を試みると, もろくて崩れ安い小型ニューロンが少数見られた. ChAT活性は, 変性のはじまっている大型ニューロンでは正常対照より低下し, 萎縮が進んで小型化するとかえって上昇した. 運動ニューロンが変性脱落して筋終板が軸索支配を失うと, ニューロンが側枝を発芽分岐して, これを補う. そこで残存する小型ニューロンは, 分岐した軸索末端へChATを補うため, 細胞体でChATを増産しているものと考えられる. 2)脊髄運動ニューロンは典型的あコリン作動性ニューロンであるが, 動物のニューロンはGADを持ちGABAを生成する. 〓根神経節細胞はGADを持っていない. ヒトの運動ニューロンのGAD活性は著しく低く, ALSニューロンでも変化を見出せなかった. この場合GABAは一糖のtrophic factorであると推測した. 3)ヒトの小脳プルキニエ細胞は, ウサギやラットの細胞に比らべて著しく低いGAD活性を持つ. 小脳の分子および顆粒層, 尾状核なども, ヒトではGAD活性が筋物より低い. 一般的にヒトニューロンは, 伝達物質生成能が低いと思われる. 4)変性網膜では, GABA作動性アマクリン細胞が著しく高いGAD活性を持っていた.
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