研究概要 |
手術侵襲による抗生物質の体内動態の変動を胃癌のための胃切除症例について検討した。投与した抗生物質は腎より尿中排泄を主体とするcaftazidime(CAZ),Cefotiam(CTM),Netylmicin(NTL)であった。 CAZでは、術前にくらべ、手術直後の血中濃度は低く経過し、2,4時間値に明らかな差異を認めた。薬動力学的指数ではT1/2β,AUCの有意低下となった。これに対し、CTM投与例でも同様の傾向がうかがえたが、明らかではなかった。この傾向は術後3日目に術前値に認められなくなった。アミノ配糖体としてとりあげたNTLの術直後の血中濃度は術前にくらべ、同様に低下傾向を認め、尿排泄量の減少傾向があった。 尿細管機能の指標としてN-Acety 1-β-D-Glucosaminidase(NAG)と【β_2】-Microglobulin(【β_2】MG)の尿中排泄を測定した。CTM投与は腎障害との関連はないものの、手術中のNAG上昇で示されるように手術侵襲による一過性腎障害の可能性は否定できなかった。NTL投与例では3例中2例において、NTL連続投与により、NAG,【β_2】MGは共に漸増し、潜在性腎障害の可能性が考えられた。NTLは筋肉内投与を行ったので、Kaであらわされる投与局所よりの吸収との関連も考慮されるが、他2剤と異り、尿中排泄,血中濃度低下が共に認められたことは、抗生剤筋肉内投与法の特異性を示す成績であろう。 CAZ,CTM,NTLを用いた手術侵襲による抗生剤の体内動態は、腎排泄能を中心とする因子の変化により、変化する可能性が認められたが、薬剤、投与法による特異性が考慮され、臨床的には手術中,手術後における抗生剤投与法に補正を加える配慮の必要性が示唆される。
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