研究概要 |
肝細胞癌は門脈,肝静脈,下大静脈の腫瘍血栓によって進展する傾向大である。門脈の腫瘍血栓は門脈を切開することによって比較的簡単に除去出来るが、肝静脈から下大静脈に及ぶ腫瘍血栓を除去するためには肝門部で肝動脈,門脈,肝の上下で下大静脈を遮断して無血下に下大静脈を切開する操作が必要である。臨床的に2例についてこの手術を行った。血行遮断時間は右3E域切除と腫瘍血栓除去例が26分間、左副腎転移巣切除と下大静脈腫瘍血栓除去例が10分間であった。その結果血行遮断が20分以上に及ぶ場合には血圧の低下,心係数の減少,全末梢血管抵抗か上昇がおこることが判った。そこで循環動態の変動の可及的小さく且つ手技の簡単な方法を確立するため実験的に検討した。肝動脈,門脈,下大静脈を遮断した場合、第1群無バイパス群,第2群下大静脈バイパス群,第3群門脈バイパス群,第4群門脈,下大静脈バイパス群の4群についていずれの方法が最善の方法かを検討した。循環動態の三種には血圧,心係数,全末梢血管抵抗,門脈,下大静脈の圧,バイパス流量,血液ガスの変動を用いた、循環遮断時間は45分間行えば如何なる腫瘍血栓も除去し得るであろうと考え、23頭について実験を行ったが、出血,低血圧,心停止などのため死亡する犬が多く、データーが得られたのは9頭のみであった。しかしながらこのデーターも信頼性の点で問題があったので循環遮断時間を30分に短縮し、15頭の実験を行った。このうち第1群1頭,第2群2頭,第3群2頭,第4群2頭についてデーターが得られた。その結果門脈バイパス群,門脈下大静脈バイパス群が血行遮断時の循環動態の変動が軽度である傾向がみられた。血液ガスの変動は4群共著明なアシドーシスが認められ、臨床の場では補正操作を強力に行うべきことが示された。臨床例は適当な症例がなかったので時機をとらえて門脈バイパス下に手術を行うことを考えている。
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