研究概要 |
近年虚血性心疾患による死亡率は増加傾向にありその死因の一つに致死的不整脈である心室細動がある。本研究の目的は右心室解離術,心内膜ルゴール液塗布術,胸部交感神経節切除術の各術式が心室細動閾値に与える影響を比較検討し、術式を組み合わせることにより細動閾値の高い、心室細動になり難い心臓モデルを作製する事にある。 基礎実験として急性心筋虚血における細動閾値の経時的変化を調べた。冠動脈結紮により虚血となった心臓では著明に細動閾値は低下した。この傾向は作製後2時間後まで続き、以後次第に上昇を示した。この結果を基に、まずルゴール液塗布術の効果を検討した。体外循環,心停止下にあらがじめ作製しておいた虚血心に対し経左房的にルゴール液を左室心内膜へ塗布した。虚血作製後著明に低下していた細動閾値はルゴール塗布後有意に上昇を示した。組織所見ではルゴールは心内膜下層までは達するが、心筋層には著明な変化はみられなかった。 右心室解離術前後でも細動閾値は有意に上昇(23.3±1.7→39.1±3.6mA),胸部交感神経節切除前後でも細動閾値は前値を100%とすると139%へと上昇していた。解離術と神経節切除術を組み合わせた場合は204%にまで上昇していた。 今後の検討課題としては3術式全部を組み合わせた時の細動閾値の変化,心機能への各術式の影響,慢性期での有効性,ルゴール液の毒性の検討などがあるが、2術式を組み合わせて細動閾値が著明に上昇している事からも考み、より心室細動になり難い心臓モデルの作製は可能と思われる。
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