研究概要 |
難治性てんかんの外科的アプローチとして、視床切開術あるいは、小脳や尾状核の慢性電気刺激等が提案されているが、その効果、理論的根拠は、未だ確立されていない。視床前腹側核,外側腹側核は、視床一皮質回路のみならず、視床-線条体-淡蒼球回路,視床-線条体-黒質回路に関与し、同時に大脳皮質4,6野,小脳からの両側性支配も受けている。このような解剖学的位置から視床腹側核を中心とする皮質-皮質下回路は、皮質焦点性発作波の生成と全般化に大きく関与していると考えられる。 本研究では、低頻度皮質刺激(LFCS)による新しい焦点性てんかんモデルを開発し、視床腹側核,線条体,黒質の電気凝固あるいは、GABA関連薬物の局所投与のLFCS誘発発作に及ぼす効果を電気生理学的手法とデオキシグルコースオートラジオグラフィーを用いて研究した。その結果、皮質-視床-基底核間のダイナミックな相互促進作用による皮質焦点性てんかんの全般化機序が示唆された。すなわち、焦点皮質からの直接入力と視床-線条体投射を経由した入力とが、線条体の抑制性出力ニューロンを相乗的に活性化し、それは次いで、緊張性に発火している黒質あるいは、淡蒼球の抑制性出力ニューロンの抑制を引き起こす。その結果、視床の皮質および線条体への投射ニューロンが促通を受け、皮質,線条体ニューロンがさらに動員される。このような多重の皮質-皮質下正帰還回路によって、焦点性発作は次第に、多数の皮質及び皮質下ニューロンを発作に巻き込み、全般化すると考えられた。これは、さらに、てんかん性活動が、いわゆる"Preferential Pathway"に沿って順々に伝搬して行くという概念に加えて、多重神経帰還回路によって、複数の脳部位が同時にてんかん発作に巻き込まれる可能性を示唆するものである。
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