研究概要 |
今年度は, 更に一歩研究を進めて中耳腔のガス代謝と耳管機能の検討を行った. 従来から, 一般に中耳腔に付属する耳管は, 中耳腔内に環境圧の空気を外界から取入れる器官のように説明されて来た. しかし, 中耳腔のPO_2を測定しながら種々の負荷を加えると, 常圧環境の嚥下運動に伴う耳管開閉で全く耳管から空気が中耳腔に補充されるものでなく, 中耳腔の空洞特性として, 独特の空洞ガス代謝が存在して, 耳管はこれを外界に排出する役目をもつ事が分った. 1.正常成人の中耳腔内PO_2値は, 大気の約1/3である. (平均53mmHg) 2.自然な嚥下運動に伴う耳管開閉運動で中耳腔のPO_2は変化を示さない. 3.モルモットの中耳骨胞レーセンサーを固定して, 頭部を100%酸素バックで覆い, 嚥下運動を行わせても中耳腔内にガスの流入を認めないが, 酸素バックを100mmH_2O程度で圧迫して中耳腔と外圧に差圧を生じさせると中耳腔内PO_2値が上昇し耳管経由のガス交換が行われた. 4.人が睡眠中に中耳腔内PO_2を測定すると値は変わらないが, 中耳腔内圧が上昇する. これはCO_2拡散が原因と考えられ, 嚥下運動が生じると圧は常圧に戻った. 以上の事から, 正常な耳管機能は, 単に中耳腔内のガス分圧が安静時に耳管が閉じているので高くな傾向がある. そこで嚥下が生じると経耳管性にガスの放出を行う. 即ち, 覚醒時には, 嚥下運動が頻繁に生じて中耳内圧が高まる現象がとらえられないが, 睡眠などで中耳腔の内圧が高まる事は, 中耳腔の特異なガス代謝が働き, 排出管として耳管は存在する. そして, この機構は, 経耳管性の中耳腔感染などに対して, 合目的防御機構である.
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